Q9. GOP改善方法⑧ 人材定着率を高める方法は?
A.人材定着率を高めるうえで重要なのは、「採用を強化すること」だけではありません。
今いるスタッフが「この職場で働き続けたい」と思える環境をつくることこそが、採用コストや教育コストを抑え、結果としてGOP改善につながります。

今回はGOP改善方法の8つ目として、「人材定着率を高める方法」について、「いろいろな働き方」「DX・外注」「評価の仕組み」という3つの視点から考えていきます。
働き方の選択に対応する
旅館・ホテル業界では、長年「中抜けシフト」が当たり前とされてきました。
朝と夕方に忙しさが集中する業態の性質上、日中に数時間の休憩を挟むこの働き方は、現場運営としては合理的な面があります。
一方で、最近は拘束時間の短い「通し勤務」を導入する施設も増えてきています。
ただし、どちらか一方が正解というわけではありません。
例えば、子育て中のスタッフにとっては、日中に一度帰宅できる中抜けシフトの方が、保育園の送迎などと両立しやすく、都合が良い場合があります。
一方で、独身のスタッフや遠方から通勤するスタッフにとっては、拘束時間全体が短くなる通し勤務の方が生活のリズムをつくりやすいこともあります。
どちらの働き方を選べるかによって、働き続けられるかどうかが左右されるスタッフは少なくありません。施設としては、両方の選択肢を用意し、スタッフ自身の希望に合わせて選べる体制を整えることが、定着率向上の第一歩になります。
業務内容についても、同じことが言えます。
経理や予約管理など、一つの業務にじっくり向き合いたいスタッフもいれば、フロント、客室、レストランと幅広い業務を経験したいスタッフもいます。
専門職としてのキャリアパスと、マルチタスクとしてのキャリアパスの両方を用意しておくことで、それぞれの志向に合ったスタッフが長く働き続けられる職場になります。
例えば、パソコン作業が得意で人と接するのが苦手なスタッフを、無理にフロント業務へローテーションさせれば、負担感から離職につながりかねません。
逆に、いろいろな仕事に挑戦したいスタッフを一つの部署に固定してしまうと、成長実感が得られず、退職を考え始めることもあります。
スタッフ一人ひとりの適性や希望を把握し、キャリアの選択肢として示せるかどうかが、定着率を左右する分かれ目になります。
また、正社員としての通年雇用だけでなく、隙間時間を活用した単発バイトや、「おてつ旅」のような仕組みを取り入れることも、人材確保の選択肢を広げます。
おてつ旅は、旅先で短期的に施設の手伝いをしながら滞在する仕組みで、繁忙期の人手不足を補いながら、参加者にとっては旅行と仕事を兼ねた体験になります。
近年では、この仕組みを外国人旅行者向けに展開する動きも出てきており、インバウンド需要と人材確保を同時に満たす可能性を持った取り組みとして注目されています。
例えば、繁忙期の週末だけ客室清掃やレストランの配膳を手伝ってもらう単発バイトを活用すれば、正社員を無理に増やさずとも、ピーク時の人手不足を補うことができます。 「正社員として雇うか、雇わないか」の二択ではなく、業務の性質や繁閑に応じて多様な雇用形態を組み合わせる発想が、これからの旅館・ホテル経営には求められます。
DX・外注で「人でなくてもよい業務」を見直す
人材定着率を高めるためには、働き方の柔軟性だけでなく、そもそも人手をかけずに済む業務を減らすという視点も欠かせません。
例えば、客室清掃の一部にお掃除ロボットを導入したり、フロント業務に自動チェックイン機を取り入れたりすることで、スタッフの業務負担そのものを軽減できます。
負担が減れば残業や人員不足によるしわ寄せも減り、結果として離職の防止につながります。
例えば、深夜のチェックインに毎回フロントスタッフが対応していた施設で、自動チェックイン機を導入すれば、夜間シフトの人員を減らしつつ、スタッフの負担も軽減できます。
浮いた人員や時間を、日中の接客やおもてなしの質を高める業務に振り向けることができれば、DX化は単なる省力化ではなく、サービス向上策にもなります。
経理業務やOTAの運用についても、社内で専任スタッフを育てるのではなく、外部の専門会社に委託するという選択肢があります。
専門性の高い業務を採用・教育しても、担当者が数年で退職してしまい、またゼロから採用・教育をやり直すという「教育と退職のスパイラル」に陥っている施設は少なくありません。
外注によってこのサイクルから抜け出すことができれば、限られた人員を、接客などお客様と直接向き合う業務に集中させることができます。
例えば、経理担当者を採用してもOJTに数ヶ月かかり、ようやく戦力になった頃に退職してしまうというケースは珍しくありません。 記帳代行や税理士事務所への外注に切り替えれば、担当者の入れ替わりに一喜一憂することなく、安定した業務品質を保つことができます。
思い切って休館日を設ける
人材定着率を高める工夫として、あえて休館日を設けるという選択肢も検討する価値があります。
365日営業を続けていると、スタッフのシフトは複雑になりがちで、連続した休みを取ることも難しくなります。
休館日を設けることで、シフト全体がシンプルになり、スタッフがまとまった休暇を取りやすくなります。
稼働率や売上への影響はありますが、離職による採用・教育コストや、疲弊したスタッフによるサービス品質の低下を防げると考えれば、中長期的にはGOP改善につながる選択肢のひとつです。
例えば、平日の稼働率が低い曜日を定休日に設定すれば、失われる売上は限定的である一方、スタッフは月に数回、確実に連休を取得できるようになります。 「休みが取れないから辞める」という理由による離職を防げれば、採用・教育コストの削減という形で、休館による売上減少を上回る効果が得られることもあります。
評価の仕組みを見直す
働き方や業務負担の見直しと合わせて重要なのが、スタッフをどう評価するかという仕組みです。
従来の人事評価は、上司が部下を一方的に評価するという形が一般的でした。
しかし、この方法だけでは、評価の妥当性に納得感を持てないスタッフが出てきたり、評価する側の主観に左右されてしまったりする面があります。
そこで有効なのが、双方向の評価という考え方です。
上司から部下への評価だけでなく、部下から上司への評価や、同僚同士でのピアレビューを取り入れることで、より多面的で納得感のある評価が可能になります。
例えば、フロント業務を一緒に担当するスタッフ同士が、互いの接客対応について評価し合う仕組みを導入すれば、現場でしか見えない細やかな頑張りが評価に反映されやすくなります。
また、部下からのフィードバックを受ける仕組みがあることで、管理職自身のマネジメントの質を見直すきっかけにもなり、組織全体の風通しが良くなる効果も期待できます。
高評価を見える化する工夫も、定着率向上に効果的です。
例えば、
• 口コミでお褒めの言葉をいただいたスタッフの名前を、朝礼や社内掲示板で共有する
• 同僚から感謝の気持ちを伝え合う「サンクスカード」のような仕組みを取り入れる
• 月間や四半期ごとに、お客様や同僚からの評価が高かったスタッフを表彰する
といった工夫が挙げられます。
評価は、給与や昇進といった待遇面だけに使われるものではありません。
「見てもらえている」「認めてもらえている」という実感そのものが、スタッフのモチベーションと定着率を大きく左右します。 評価制度は一度つくって終わりではなく、現場の声を聞きながら継続的に見直していく姿勢も大切です。
全8回のシリーズを振り返って
ここまで8回にわたり、省力化、OTA手数料、経費、客単価、インバウンド、リピーター、口コミ、そして人材定着率と、旅館・ホテルのGOP(営業総利益)を改善するための考え方をご紹介してきました。
こうしたテーマは、どれも日々の現場に追われる中で、なかなか腰を据えて向き合う時間が取れないものばかりです。
そして、一つの施設の中だけで考え続けていると、当たり前になってしまい、かえって課題そのものに気づきにくくなることもあります。
これらの問題を一つの施設だけで抱え込む必要はありません。外部の視点を交えて相談することで、初めて見えてくる改善のヒントも数多くあります。
当社のGOP改善・経営改善支援について
当社(ホスピタリティマネジメント株式会社)では、20年以上にわたるホテル・旅館の経営改善支援の経験を活かし、本シリーズでご紹介してきたさまざまな視点から、それぞれの施設に合った改善策をご提案しています。
ぜひ気軽にホスピタリティマネジメントをご活用いただき、一緒に貴施設のGOP改善に取り組んでいけましたら幸いです。