利益率改善のための人材育成と労働生産性の向上 ①

利益率を改善するためには、損益分岐点を下げるということでもある。そのためには原価管理なども必要だが、一人当たりの労働生産性の向上が重要となる。

労働生産性を向上させるためには「組織・仕組みの見直し」「人材育成のための教育研修」「システム化(省力化&効率化)」などが必要となる。要するに今までのやり方に縛られることなく、固定概念を払拭し、利益率改善のための構造改革や組織改革に取組むことである。または業態変更や規模の縮小なども考えられる。

一方では仮に投資(設備投資、システム投資、人材への投資)が伴ったとしても資金繰りの状況が許せば、コロナ収束後の利益改善のための前向きな投資も検討するべきである。各種助成金や補助金などは最大限活用したい。

コロナ禍における業務改革(効率化)の考え方(一例)

「やらなくてもよいこと」「業務の簡素化」「業務の軽減」「システム化の推進」を探し出すこと。今後、少人数でのホテル運営を可能とするためには「総労働時間の短縮」という考えが重要となる。同時に個々のスタッフの生産性をアップさせるために教育研修なども実施することも必要がある。

以下の考え方を参考に、現場スタッフと共に検討すること。

  • いままで1時間かかっていた業務を40分間で行うためには?
  • 5人で行っていた業務を4人で行うためには?
  • 今までのやり方が当たり前と思っていたことが本当に必要なのか?
  • 料理の提供方法や接客方法を簡素化できないか?
  • 電話応対を減らすためには何が必要か?
  • 会計業務や集計業務をシステム化したら業務量は軽減できないか?
  • 作成している資料は本当に必要なのか?
  • 部門で重複している業務はないか?
  • 勤務時間や営業時間などに無駄はないか?
  • 売上や需要に見合った人員配置になっているか?
  • 外注していた業務を内製化できないか?
 これらの考え方を現場スタッフに共有し一緒になって検討することで、我々も気づいてないアイディアが多々出てきたことも事実である。
このやり方や考え方をコロナ期間中に定着させることで、アフターコロナにおいては総労働時間の短縮は勿論、残業時間などは圧倒的に削減することが可能となる。また個人の生産性がアップすることで少人数オペレーションが可能となり、利益確保をすることで最終的には給与の改善なども視野に入れて取組むこととなる。 

【運営面からみた収益改善(バリューアップ)メソッド】③

売上が70%程度であっても経営が成り立つ収支構造を目指す

業務効率化・組織改革・事業構造の見直しなどの改革に積極的に取り組んだホテルは損益分岐点が改善され、2021年以降の売上が、コロナ前の対2019年で70%程度(売上30%減)であってもGOPレベルでは同等の利益を確保することをめざすべきである。

勿論、地域差や施設規模や業態での差があることは承知している。

弊社のクライアントのフルサービスホテルの中には2020年度の売上が対2019年で30%程度(売上△70%減)のホテルが複数存在することも事実である。中には人件費総額が売上額とほぼ同等になり人件費率100%(雇用調整助成金を除く)というホテルも存在する。2019年までは営業黒字だったにもかかわらず、一気に奈落の底に突き落とされてしまった。

しかしこのホテルではいち早く、組織や役割または事業構造自体の転換に積極的に取組んだことで、損益分岐点が大きく改善され、売上規模が対2019年で60~70%程度でも赤字にならないことが見込まれている。そして2022年には更に黒字化が見込まれ、2020年の大きなマイナスを徐々に挽回するべく取り組んでいる。

リミテッドサービス(宿泊主体型)とフルサービス(総合型)ホテルの人件費の考え方

経費構造の見直しの場合、特に人件費の効果的な削減(適正化)は重要なポイントだが、需要回復期を見越した体制も視野に入れたい。

宿泊主体型ホテルはそもそも少人数のスタッフで運営しているため、人件費の削減にもおのずと限界がある。

一方、フルサービスホテルに関しては宴会スタッフやレストランスタッフまたは調理部門や管理部門などの業務を見直すことで、「総労働時間を削減」し結果として人件費のコントロールすることは十分に可能である。

とはいえ宴会調理部門などは残念ながら現時点では宴会需要が消滅したことにより、雇用調整助成金の対象として、集中的に休暇を取得させているホテルも多く、調理スタッフの技術とモチベーションの低下が危惧されるところである。

例外的ではあるが人手が不足している他の業種に期間限定で出向させるという、新たな雇用形態も出現してきた。

更にはニューノーマルに適合した新たな商品開発に取り組んだホテル企業などは、2022年以降に需要が回復した段階では、その新たな商品が売上の底上げ効果となり、利益に貢献するはずである。

【運営面からみた収益改善(バリューアップ)メソッド】②

2021年以降は、「優勝劣敗」

優勝劣敗とは、「生存競争では境遇に適したものが生き残り、境遇に順応できない者が滅びる」という意味、まさに2021~2022年は宿泊業界にとっては優勝劣敗が明らかになる年である。

2013~2019年まではインバウンドの増加をうけ、新規開業ラッシュにより客室数の供給が急増したが、コロナ感染症の影響で一気に需要が消失し、全国ほぼすべての宿泊施設が危機的経営状況に陥ってしまった。

雇用調整助成金やGOTOキャンペーンなど各種助成制度や支援制度はあるものの、それらが終了後の反動が大きく影響し、その段階で金融機関の支援を得られず、資金ショートしてしまえば、まさに経営破綻という厳しい現実に直面することになる。

いま必要なことは需要回復期における利益率の改善のための準備をする、ということである。

じっと我慢して耐えているということでは、感染症収束後も間違いなく負け組ということになってしまう。

一方では雇用の確保ということも重要になってくる。

たしかに現状は想像を絶する厳しい経営環境(財務状況)ではあるが、需要回復期における人手不足はいまから予想できることである。

2019年までは人手不足が業界の大きな課題でもあったことを考えると、人員整理やリストラなども慎重に行う必要がある。

しかし資金繰りで待ったなしの状況に追い込まれているホテルでは、いまを乗り越えるために人員整理もやむなしだが、同時に施設規模の縮小や不採算部門からの撤退、または営業スタイル自体の変更なども考えるべきである。

いまは雇用調整助成金等を最大限に活用し、ギリギリまで雇用を守るという基本姿勢をもっていただきたい。

【運営面からみた収益改善(バリューアップ)メソッド】①

新型コロナウイルス感染症で大きなダメージを受けた宿泊業界では2021年以降、経営破綻・譲渡・リブランド・運営会社変更など続出することが予想される。

2019年までは運営面における経営悪化の原因や対応策などは、事業デューデリジェンス(事業評価および分析)などを実施することで、ある程度は改善のための方向性などを示すことができた。

しかしいま我々が直面している状況は、内的要因や経済不況などによる落ち込みではなく、世界規模の感染症という未知の領域であり、その打開策に関しては、今までのやり方だけでは通用しない。

いま我々に求められていることはホテルの役割や価値観が変わったということを認識し、2021年はもとより2022年以降を見据えた事業構造の転換、収益構造の変革、生産性の向上、などホテル事業の在り方そのものの改革が必要とされている。

ここではコロナウイルス感染症で受けたダメージから脱却し、運営面から見た経営の健全化、更にはバリューアップするにはどのような方法や考え方があるのか、等の考察を行うこととする。

「運営面から見た現状と今後の方向性」

ホテル業界再編成時代&今後の展望

2020~2021は新型コロナウイルス感染症に翻弄され、宿泊業界では生き残りをかけ様々な対応を迫られているが、資金繰りの悪化から事業継続を断念するホテルも多数でてくるはずである。

その結果として運営会社の変更や事業譲渡または廃業・倒産など様々な形で業界の再編成がおこなわれる。それは大手のホテル会社においても予断を許さない状況である。

またひとくくりにホテルと言ってもカテゴリーによって、そのダメージの大きさは違ってくる。

フルサービスホテルでは宴会需要が消滅したことを受け、ダメージの大きさは宿泊主体型ホテルとは比較できないくらいの規模となっている。

また有名観光地の小型高品質な旅館とインバウンドの構成比率が多い都市部のホテルでも大きく違ってくる。

このような状況下でホテル運営を継続していくために重要なことは、資金繰りはもとより、収支構造の見直し(収益力のアップ)ということになる。

言い換えれば損益分岐点をいかにして下げることができるか、ということである。

運営手法の見直しや組織の見直しまたは業態変更などで損益分岐点を下げることができれば、2021年下期以降にワクチン接種が普及し、観光需要が徐々に回復してくれば、コロナ禍で受けたダメージを補うことも可能なはずである。

そのためにはハードウエア(設備や機能)、ソフトウエア(組織、仕組、役割、手法)、ヒューマンウエア(人材育成、スキル、知識、生産性)など、事業の在り方自体の見直しが必要となる。